最近、はじめての方と連句を巻く機会が増えてきましたので、こちらに連句の基本をあげておきますね。ちょっと長いですが、全部覚える必要はありません。どういうものか、だいたいの感じをつかんでくれればOK。あとはその場で説明していきますし、やってみれば意外と簡単です。何度も「連句はじめて」という人と巻いたことがありますが、だれでも楽しめます。

連句の基本

連句は、五七五の句と七七の句を交互に並べていくものです。五七五を長句、七七を短句と呼びます。
連歌俳諧をベースに作られており、さまざまな形式があります。もっともポピュラーなのは三十六句並べた「歌仙」という形式です。連句をすることを「連句を巻く」といい、全体を「一巻」と呼びます。
連句に参加し句を作る人たちを「連衆」といい、その場を「座」と呼びます。短歌や俳句とは異なり、一句、一首で立つということより、前後とのつながり具合が重視されます。前の句に次の句をつなげることを「付ける」といいます。付け方にも全体の流れにも、連句独特のルールがあります。
複数の人で行うものなので、巻き方にも種類があります。全員が付け句を出し「捌き」というゲームマスターが選句する「競い付け」、出された句について参加者全員で吟味する「衆判」、出席者が順番に付けていく「順付け」など。今回はわたしが捌きをつとめる競い付けで行います。

1 付ける

前の句とは適度な距離感を持った句をつけます。同じことを繰り返すのは「ベタ付き」と言って嫌われます。また、多様な付け方があります。例をあげて説明します。「放課後の理科室の器具透き通る」という長句に短句を付けてみます。


放課後の理科室の器具透き通る


a あいつはいつも叱られていた   (学校という場所から連想して)


b 長く伸びゆくわたくしの影    (放課後という時間から連想して)


c 竜のおとしごおとしごを吐く   (理科という言葉から連想して)


d コウテイペンギンぬっと出て来る (空想)


出される付け句は連衆によって異なります。自分の句に意外な句が付いて驚いたり、ほかの人が自分とまったくちがう句を付けて驚いたりすることも、連句のひとつの楽しみです。また、そこからどれを選ぶかは捌きによって変わります。どの句が選ばれるかで作品の進む方向は変わります。ここでは、「コウテイペンギンぬっと出て来る」を選ぶことにします。


放課後の理科室の器具透き通る
 コウテイペンギンぬっと出て来る

2 打越し

連句では、一句目と三句目、二句目と四句目のように、一句挟んだ句を「打越し」と呼びます。前句とは「付く」が、打越しとは「離れる」というのが、連句のつながり方の大きな特徴です。「鎖のようにつながる」と表現されます。


a 放課後の理科室の器具透き通る
b  コウテイペンギンぬっと出て来る
c 泣いた子の背中をさするおばあちゃん


aとは不条理的なおもしろみでつながったペンギンが、cとのつながりでは泣いた子をあやすおもちゃとして描かれています。bの句をはさんで、放課後の理科室とはまったくちがう世界がよまれています。


「離れる」とはどういうことか。手がかりになるのが、「自」「他」「場」という考え方です。連句の世界では、句を「自」「他」「場」の3種類に分けます。 
「自」とは、自分についてよんだ句です。例の句のなかでは「長く伸びゆくわたくしの影」にあたります。 
「他」とは、他人のことをよんだ句です。例の句のなかでは「泣いた子の背中をさするおばあちゃん」にあたります。 
「場」とは、人間の出てこない句です。例の句のなかでは「放課後の理科室の器具透き通る」にあたります。 
ほか、自分と他人が両方出て来る「自他半」というものもあります。


打越しの「自」「他」「場」が重ならない、というのが連句のルールです。「自」の句の打越しは「他」か「場」になるように、「場」の句の打越しは「自」か「他」になるようにします。隣同士は同じものが並んでいてもかまいません。

3 式目

連句の本質は、連なった句たちの多様性です。一貫したテーマや物語を作るのではなく、世界の多様な姿を織り込むことが、連句の本質です。ある場所では愛が歌われ、またある場所では時事問題がよまれ、台所も宇宙もひとつの作品の中に存在するようにします。 
鎖のように隣同士とだけつないで、できるだけたくさんの事象を取り入れ、森羅万象をうたいあげることが連句の目標です。


ひとつの作品のなかで四季がすべて織り込まれていることも重要です。春秋の句は三句から五句、夏冬の句は一句から三句連ねます。季節は必ずしも順番に並ぶ必要はなく、夏から冬、冬から秋、ととんでもかまいません。が、必ず一巻のなかにすべての季節が登場しなければなりません。
俳句と異なり、連句には「雑(ぞう)」と呼ばれる、季語のない句があり、季節が移るとき、あいだに挟みます。


一巻の流れ方にも独特のルールがあります。これを「式目」といいます。
最初の句は「発句」といいます。芭蕉の俳句と呼ばれるものは、この発句だけを切り出したものです。発句は当季で、切れ字を用いた整った句を詠みます。
二句目は「脇」。発句を受け、二句で短歌のような世界を作るようにします。体言止めが好ましいと言われます。
本来は、発句は客人が持って来る挨拶句、脇はホストがつけるものでした。
続く三句目は「第三」、思い切った転調が求められ、「て」「して」「にて」などで終わり、次に続くような形にします。
ほかに「月の常座」「花の常座」があるなど、いくつかのルールがあります。
最後の句は「挙げ句」と言います。


以上が基本のルールです。
今回は、「歌仙」の半分、十八句からなる「半歌仙」を巻きます。表六句と裏十二句からなります。表、裏というのはむかし連句を巻くときに使った懐紙の名残です。
式目については、今回は捌きが「次はこんな感じで作りましょう」と促していきますので、とりあえず覚える必要はありません。
ただし、わたしの師匠は、あまり式目に縛られず、自由な運動を重視していく、という考えの人でしたので、わたしもそのやり方を踏襲していきます。